では、2019年財政検証結果を詳細に見ていきましょう。
厳しい想定を考えておくという意味で、下から2番目のケースⅤ(実質経済成長率0.0%)を取り上げます。
2019年度の所得代替率は61.7%ですが、マクロ経済スライドが終わる2058年度には44.5%まで低下(※)します。
(※)本来、50%を下回りそうならスライド調整の停止などが検討されますが、機械的に給付水準の調整を進めた場合
61.7%から44.5%への低下は、変化率でいえば27.8%の減少。
ちなみに中間的な想定としてよく使われるケースⅢでは、所得代替率の減少は17.6%(61.7%→50.8%)です。
いろいろなところで「将来の年金は2~3割減る」とざっくり語られるのは、これらのケースの所得代替率の変化を表しています。
ですが、そのために誤解が生じるようになりました。
2~3割の減少というのは、あくまで所得代替率の話なのですが、世間一般では年金額そのものの減少と受け取られているのです。
2019年度のモデル世帯の年金額は22万円でしたが、ケースⅤならこれが27.8%減少して15.8万円になると思われているわけです。
家計調査によると、高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみ)の平均毎月赤字額は5~6万円。
「老後2,000万円問題」を検証した際に解説した通りです。
ところが、年金額が22万円から15.8万円になったら、毎月の赤字額は11~12万円に膨らんでしまうことに…
「これではとても暮らしていけない…」となりますよね。
しかし、財政検証の年金予想額を見てみると、ケースⅤではマクロ経済スライドによる調整が終わる2058年度の年金額は20.8万円と微減にとどまっています。
では、どうして所得代替率が大幅に低下しているか?
ここで所得代替率の計算式を再確認しましょう。
「所得代替率=夫婦の年金額÷現役男子の手取り収入」
ケースⅤは賃金上昇率が0.8%で伸びていく前提なので、2058年度までの長期間に現役男子の手取り収入は46.7万円に大きく増加しています。
分母が大きくなるため所得代替率は下がりますが、年金額自体は微減でしかないという予想になっているわけです。
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